会えたらいいな。

INTERVIEW VOL.2 料理家 栗原はるみさん

「できることはどんなことでもしています。料理本は私の命ですから。」

池野:

今日はお忙しい中ありがとうございます。私、最初大学で一人暮らしを始める時に母の書棚から一番簡単で美味しそうな料理本を選んで持っていったんです。それが栗原はるみさんの著書だったのが分かったのは後になってからなんですけど。今では何冊もキッチンにあって、ホーム・パーティーをするときやイベントでのランチをお出しする時、年末年始のおせち料理などたくさん助けられています。それはもうみんなに評判がよくて! 栗原さんのレシピ本は今累計2000万部を超えていると伺ったのですが、驚くというよりむしろ、やはりという気がしています。私が美味しく作れるのですから(笑)。

栗原:

そんな…でも、ありがとうございます。今は2400万部を超えたところだと思います。季刊の「haru-mi」が毎号25万部なので年間100万部、他の雑誌を入れると年間ではもう少しですね。どんなにテレビにでていても自分は料理家として仕事しているので本が売れないというのは自分としては残念なこと。なので本はとくに力を入れているんです。この「haru-mi」のレシピひとつひとつをとても大事にしています。雑誌用に撮影してからも最終の印刷確認ギリギリ当日まで何度も何度もレシピに手を加えているんですよ。

池野:

全身全霊でレシピを作り上げていらっしゃるのですね。

栗原:

できることはどんなことでもしています。料理本は私の命ですから。

料理は塩加減が大切。自分の味を把握しておくと安心です。

池野:

栗原さんの読者イベントにいらっしゃった方のインタビューをTVで拝見しましたが「栗原さんは神です!!」といってらっしゃいました。私もとてもその気持ち分かるような気がします。レシピを考える時はどのようなことに気をつけていらっしゃいますか。

栗原:

そんなとんでもないです。レシピは誰でも作れるように特別な調味料とか食材を使わないように普通のスーパーで手に入るもので作れるようにしています。そうでないと分量の数字が変わってしまうので。美味しい醤油や塩を使うと小さじ1つくらいの違いがでてきますしね。

栗原さん愛用の携帯スピーカーとオー・ド・パルファン。大切な方からの贈り物のワイングラスと栗原さんの原点ともいえる蔵書。

池野:

たとえばお塩なんですけど、小さじ1にする、1/2にする、少々など微調整をしてレシピを何度も試作されて決められるとお聞きしましたが。

栗原:

やってます。料理はお塩が命ですから。甘くするのもしょっぱくするのも一番大事なのが塩なんです。塩加減のお味見はとくにしっかりやるようにしています。自分でオリジナルのお味見カップ作ってしまうほどに(笑) 一口サイズの小さなティーカップなんですよ。これ差し上げますね。

池野:

あっ! ありがとうございます。可愛いし便利そうですね。

栗原:

便利ですよ! 最後に塩少々で味を整える、ってよく書いてあるじゃないですか。でも人によって少々の濃さも違っていて、みんなその少々が分からないといいます。全ての人が同じ材料を使っているわけではないし、鮮度が違うと水の出方が違うし、絞り方も煮方も違う、鍋が違う…となれば、少々の数字の絶対的なものがないんです。

池野:

同じ分量でも濃く感じる方もいるし、もっともっと薄く感じる人もいたりで個人差もありますね。

栗原:

そう、そのうえ野菜を使うときに古いとはみんな思っていないわけです。鮮度を忘れちゃうの。だから塩に関しては何度も味をみて自分の丁度いい加減をみつけるのがいいんです。たとえばハンバーグなどは「少々」にもう一回「小」くらいがいいんです。怖いからみんな入れてないけど。
前もって味が分からない生野菜はラップに包んでレンジに入れて味をみるとか、少しだけフライパンで焼き付けて塩加減をみつけておくとか、自分の味をきちんと把握しておくと安心ですよね。自分のいつも作る材料でやっておくといいですよ。お肉もすごく上等なのだと塩の量が変わっちゃうんですよ。

池野:

ひとつのレシピを作るためには数えきれない要素があって、さらに作り手が違うからたいへんな調整作業ですね。最後の最後まで栗原さんがレシピに手をいれられているというのがこれで理解できました。

栗原:

それでもみなさんが美味しい、といってくださるから幸せですね(笑)。

19年間レシピを考え続け いまやその数は7000品目

池野:

それらを頭に入れながらする栗原さんの労力は大変なものがありますね。

栗原:

作った方が不味くないようにはしないといけないので、なるべく細やかに書くようにはしてますが、写真が大きくなると文字数が減ってしまうのでちょっと困る事はあるんですけど、そこは気をつけるようにしています。

池野:

「haru-mi」は料理本なのはもちろんですが、ゆとりのある生活に導くライフスタイル誌でもあるように思うのですが。みんなやりたくてなかなかできないけど憧れる…ような(笑)

栗原:

ちょっと私の生き方ややっている事が見てくれた方の元気になったり、参考になったりすればいいかな、くらいなんですけど(笑)。

池野:

ご家族にまつわるストーリーも文章にあったりしますね。ご主人が好きだから、とか家族が集まる日だからこんな料理にしました、のようなレシピにまつわるエピソードもふんだんにあっていいですね。

栗原:

主人の好きな味はどんなだろうとか想像して作ってくれたりもするのかなと思って。

池野:

レシピがとても身近に感じられますよね。それに栗原さんは残った素材でのレシピや保存方法まで載せていらっしゃるのでアイデアをいただくととても助かります! なかなか大根1本使い切れませんし。もしかして、はるみさんはいつもレシピのことを考えているのですか?

栗原:

いつも気にしていますね。一年中ずっと考えているんですよ。それで頭が休まない(笑)。「haru-mi」でのレシピも数ありますし、それが年4回なのともう19年レシピ考えているので普通のもので7000品目くらいに数としたらなると思います。

池野:

レシピを考え始めた19年前は溢れ出しくるのは想像できるのですが、年を追うごとに厳しくなるのではないかと想像するのですが。

栗原:

ポテトサラダだけで12種類というリクエストもきたりしますので、おっしゃる通りだんだんハードルがあがってきますよね。実際それすべて美味しくなければ困りますし、写真を見てコレ作りたいと思ってもらわないといけませんので、見た目と味のバランスは大切ですね。


少しだけいただく今は自分の好きなワインを知りたい

池野:

ところではるみさんはワインはお好きですか。

栗原:

仕事が一段落して夕食時になると主人とワインはいただきます。
ワインといえば思い出すのが、サントリーの前社長がお友達だったので仕事でお手伝いさせてもらったことがあったんです。そしたらお礼といってそちらに所属していたソムリエの方にワインのレクチャーを受けさせてもらう機会があったんですよ。どうやらその方によると私の好きなワインはカリフォルニアワインと言われたことがあります。行きつけのイタリア料理店のソムリエが「栗原さんの好きなのはこれですから」と、美味しいといったワインのラベルをコレクションしてワインブックを作ってくれたりもしました。フランスワインも好きだから自分が美味しいと思うワインはすごくあるんですよね。
でもワイン音痴と思われてしまいそうでフランボワーズの香りがすると言われても頷かなくてはいけない自分がいるのにあるとき気がついて。心の中では「いや、しないな」なんですけど(笑)。勉強するにもどうやって勉強したらいいのか分からないんですよね。どうやってこの先進めばいいのかと考えているんです。なので「haru-mi」では自分がその代弁者になろうかと思ってます。好きなワインだけ知っていればいいというわけにはいかないですよね。銘柄で覚えていてもなかなか見つからない事も多いですし。

池野:

そうですね。日本の消費者のニーズに応えるために新しい銘柄をどんどん輸入していますので気に入ったワインがいつも継続して輸入され市場にあるとは限らないですよね。フランスの蔵元にいた頃は、同じワインを12本単位なんですけど、数ケースまとめて買っていくのが普通でした。あれもコレもというのではなく気に入ったワインはセラーで熟成させ、じっくり時間をかけて向き合うのが素敵だなと感じていました。

栗原:

「haru-mi」の編集長が美映さんの赤ワイン、メルローとピノ・ノワールを持って来てくれたことがあって凄く美味しかったんです。それで白ワインのシャルドネもいただいたらそれも美味しくて。私にはとてもあっているワインだなと思ったんです。それほど量を飲む方ではないので、これからもちゃんとしたいいワインをいただきたいなと思っています。それにそれらのいいワインを読者に教えたいな、と思ってはいるんですけど…なかなか説明が難しくて「美味しいのよ、これホントに!」くらいになっちゃうかも(笑)
自分の美味しいと思うワインを造りたいと思って美映さんも造ってるんですよね。それが夢なんですよね。

池野:

はい。小さな営みですが、自分の内なる声を聞きながら造っていくつもりでいます。栗原さんにずっと美味しいといっていただけるように頑張ります!


幸せな家族がつくれないと料理家の意味がないとずっと言い続けてきた。

池野:

テレビや雑誌・CMにひっぱりだこの栗原さんですけど、取材以外の時間は試作をしたりレシピを考えたりという創作の時間だったりするのですか。

栗原:

朝だいたい5時半には起きて掃除をしていたり、残った家事をしたりとか英語のレッスンを受けたりしています。夜は一切仕事をしないと決めているので、朝しか自分の時間がないんです。主人とゆっくり過ごす時間を大切にしています。週末は近所に住む孫たちも遊びにくるので、普通の主婦と一緒だと思います。ただ職業が料理家でちょっと忙しいというだけの(笑)。

池野:

少し出張が多いだけの(笑)。

栗原:

出張は大好きなんです。元気がでますね。一人で考える時間ができるんで、できればもっと行きたいくらいです。ただ仕事も詰まってしまうのでなかなかそうはいかないのですが…。

池野:

栗原さんが大事にされているものはたくさんあると思うのですが、その中でとくに大事なものはなんですか。

栗原:

幸せな家族がつくれないと料理家の意味がないとずっと言い続けてきた人なので、自分の仕事だけが巧く行けばいいというのではないですよね。最初子育てしている時はいろいろお料理作って食べさせていて、結局その子たちは同じ道を辿って料理の道に進んだわけですが、娘も息子もこれまでもそうですが、これからもそれぞれの家庭を持って幸せに暮らしてくれていたらもう言う事はないですね。それが巧くいかないとなると自分がやってきたことが間違っていたときっと私は思っちゃうと思うんですよ。

池野:

家族が幸せでいることで栗原さんも安心してお仕事ができるということでもあるのですね。

栗原:

そうですね。家族が幸せでないと精神的に落ち着きませんし、それどころではなくなってしまいますね。

池野:

ミリオンセラーとなった最初の本を出版されたのは1992年。そこから一気にお仕事が増えていったのですね。

栗原:

いえ、そんな一気になんてことはありません(笑)。
スタートしたのは遅くて36歳なんです。その前、10年ほど専業主婦していて、その10年をまとめたレシピが「ごちそうさまが、ききたくて。」なんです。
大学でて社会に出た方と比べるとスロースターターだったので、実年齢から15歳差し引いたつもりで今仕事してます(笑)。

池野:

子育てと仕事はどのようにこなされていましたか。

栗原:

上の子が小学4年生に上がった頃から少しずつ仕事を始めるようになったんですけれど、できる範囲でしかお受けしなかったんですね。私はもともとテレビの料理番組の裏方からスタートしていて、表舞台にでたのはそれからしばらくしてからなんです。タレントの料理を作るのを3年くらいやってました。初めての雑誌は創刊間もない女性誌「Lee」でした。最初にお仕事くださった出版社の雑誌なのでいまもずっと大事にやらせてもらっていますし、とても大事にしてもらっています。

池野:

栗原さんが大事に思う気持ちが相手にもきちんと伝わってビジネスのうえでもいい信頼関係が築けているのですね。

栗原:

よかったのは私は自宅が仕事場なので子供を見られるじゃないですか。主人も仕事がテレビだったので自由業でしたし料理もできるので若い時は交代で面倒をみてたりしました。

人、チームワークに恵まれたから 今があると思っています。

池野:

私がご連絡さし上げた時も「いつでも大丈夫です。ご都合のいいときおっしゃって」とお答えになってらっしゃいましたが、そんなことがあるはずないと思っていました。すごい方だな、と(笑)

栗原:

やはり、お仕事いただいて自分が受けると決めたら相手を優先にしないと。自分の用事に相手を合わせるのはいけないことだと思っています。お会いすることになっているのにお忙しくて結局空いている日がなくてお会いできなかったりするとがっかりしてしまうじゃないですか。なのでスケジュールは極力先方に合わせるようにしているんです。

池野:

それでスケジュールがいっぱい! なんてこともあったりして。

栗原:

そうなんです。明日から3日連続お客様がいらっしゃる。みんな友達なので楽しみでもありますけど(笑)。みなさんお付き合いを始めた頃からどんどん企業で偉くなって本当にびっくりです。仕事でも企業のお仕事もたくさんしてきていますがすべて10年以上続けてお世話になっているんですよ。「haru-mi」のスタッフもフリーのみなさんですが、もう20年近く同じメンバーなんです。

池野:

すごく人を大事にされるのですね。

栗原:

一度いいとなると変わらないので、ここのスタッフは入れ替わらないんです。なので募集できない(笑)。カメラマンも独身の頃からの付き合いでもう30年! いいな、と思ってからずっと一緒にお仕事させてもらってます。ふたりにしか分からない話もあっていいものですよ。「こんなに長くできてよかったね」なんてことはよく話したりしますよ。「私がやめるまでやってて」というと「いいよ」なんて言ってくれて。

池野:

とても素敵な関係なんですね。羨ましい!
いままで重ねて来たお仕事の中で一番印象に残っている事やこれがあったから続けてこれたというもので思い当たることはありますか。

栗原:

やっぱりひとりではやってこれないということですよね。いい人に、いいチームワークに恵まれたから今があるわけです。家族もそうですよね。家族が支えてくれたからここまでこれたような気がします。みんなにそれなりの犠牲を払って私のために働いてくれるわけですから感謝をしないといけないですね。

対談を終えて

いつも穏やかな笑顔をしていらっしゃる栗原さん。
実際お会いしてみても終始変わらず優しく包み込むような笑顔でお話してくださいました。
周りの方やファンの方から相談を受けることも多いというのも頷けます。
人、そして人との関係、とくにご家族をとても大切にされているのが強く印象に残りました。
そんな栗原はるみさんの作り出す料理の数々が美味しいのは、家族への溢れんばかりの愛情から生み出されているからなんだと思います。
感謝を人に伝える術をたくさん持っていらっしゃる栗原さん。ひとりの大人の女性として尊敬してしまいます。

 

料理家 栗原はるみ

料理家。
家庭料理を中心としたアイデアあふれるレシピは、年代を問わず幅広い層から支持されている。

著書は、ミリオンセラーとなった『ごちそうさまが、ききたくて。』(文化出版局)をはじめ、累計発行部数は2,400万部を超える。
暮らしを楽しむコツやライフスタイルを提案する生活雑貨ショップ「share with Kurihara harumi」と、
レストラン&カフェを併設した「ゆとりの空間」をプロデュースし、
オリジナルの食器やキッチン雑貨、調味料、インテリア小物、エプロン、ウェアなどを展開。
2014年5月 、新たにプロデュースするショップ&レストラン「harumi’s」をオープン。

現在は、パーソナルマガジン『haru_mi』(扶桑社)、
レギュラー番組『きょうの料理』(NHK Eテレ)、
『Your Japanese Kitchen』(NHK WORLD TV)などで活躍中。

オフィシャルブログ「はるみDIARY」http://www.yutori.co.jp/harumi_diary/

料理家 栗原はるみ